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鳥取家庭裁判所米子支部 昭和42年(家)218号 審判 1968年1月06日

申立人 青木芳郎(仮名)

相手方 青木小夜子(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

(申立人の申立の趣旨)

申立人が昭和四一年(家)第一〇号婚姻費用分担請求事件の審判により相手方に対し月額二万円ずつ支払うべきことを命ぜられている婚姻費用分担金の金額を相当額減額する審判を求める。

(申立人の申立の実情)

一  申立人は、昭和三四年一二月以降その妻である相手方と別居中の者である。相手方申立に係る鳥取家庭裁判所米子支部昭和四一年(家)第一〇号婚姻費用分担請求事件につき、同支部は、昭和四一年一二月一五日、青木芳郎は青木小夜子に対し金二四万円を即時に、昭和四一年一二月以降婚姻を継続して別居する期間中毎月末日に金二万円ずつを各支払せよとの審判をなし、この審判に対し、申立人(青木芳郎)より広島高等裁判所松江支部に即時抗告したが抗告棄却となり、該審判(以下前審判と略称)は確定した。

二  しかしながら、申立人は、現在、後記の事情により、相手方に対し、婚姻費用分担として月額二万円ずつの支払を続けることは不可能に陥つている。即ち、申立人は、前審判当時、○○△△工事株式会社大阪営業所に勤務し、大阪府○○市に居住していたところ、その後、昭和四二年三月一日付で○○市所在の同会社本店営業本部営業部に転勤したため、同年二月分まで給料の一部として受給していた都市手当金一万一、九〇〇円の支給がなくなり、大阪在勤当時に比し交通の便が悪いため通勤の交通費も嵩み、更に、相手方に支払うべき金員調達のため借財をしたことも家計費を圧迫しており、出費に追われて従業員積立貯金も皆無となつた状態で、申立人としては、支出を可能な限度に節約しても相手方に月額二万円ずつの支払をなすことは到底不可能で、この儘では申立人家族五名の死を意味する状況にある。よつて、申立人が右審判により一箇月当り二万円ずつ相手方に給付すべきことを命ぜられている婚姻費用分担金の給付額を相当減額変更する審判を求める。

(相手方の主張)

相手方としては、前審判当時に比し、自己の収入は若干上昇したが、物価も騰貴しており且つ、現在、申立人に対し、審判で認められた婚姻費用分担額支払の方法を支払時期の点で緩和してやつているから、申立人主張の減額は全く理由がなく応ずることはできない。

(当裁判所の判断)

一  申立人及び相手方各審問の結果、家庭裁判所調査官元吉明作成の昭和四二年九月二日付、同年一〇月一三日付各調査報告書の外、当裁判所の調査にかかる以下の各書類、即ち申立人作成の昭和四二年八月二三日付陳述書、申立人作成の家庭裁判所調査官元吉明宛昭和四二年一〇月四日付書簡(家計費明細表を含む)相手方作成の昭和四二年一一月現在家計費内訳書、○○△△△卸有限会社代表取締役別所孝一作成の回答書、○○△△工事株式会社取締役社長香川一以作成の昭和四二年七月一一日付、同月一八日付各青木芳郎に対する給与支払明細表、青木芳郎に対する昭和四二年七月分八月分九月分各賃金明細表、○○○○○卸有限会社作成の青木小夜子に対する昭和四二年一月分ないし九月分各給料計算書、当裁判所昭和四一年(家)第一〇号婚姻費用分担請求事件(申立人青木小夜子、相手方青木芳郎)記録中の以下記載の各資料、即ち、家庭裁判所調査官元吉明作成の昭和四一年四月七日付婚姻費用分担事件調査報告書、同記録中の右事件に対する審判書、右記録中の○○公認会計士事務所作成の青木小夜子に対する給与支払明細回答書、○○△△工事株式会社作成の青木芳郎に対する給与支払明細回答書二通、青木小夜子作成の昭和四一年二月現在経費内訳書、青木小夜子作成の「申立人」(青木小夜子)が「相手方」(青木芳郎)の収入に見合いこれと同程度の文化的生活を営むための家計書、青木芳郎作成の昭和四〇年一一月から昭和四一年一月までの経費内訳書、青木芳郎の戸籍謄本を綜合すれば、以下記載の事実が明らかである。

(一)  前記申立の実情中第一項記載のとおりの経過で前審判がなされこれが確定していることは明らかである。

(二)  前審判が婚姻費用分担義務の有無、及びその分担額決定の基礎とした前審判当時の申立人及び相手方の生活状況は別紙第一表記載のとおりであり、これに対し、前審判後の申立人及び相手方の生活状況は別紙第二表、第二表の二、第二表の三記載のとおりである。

(三)  前審判は、申立人の婚姻費用分担額算定の方法として労働科学研究所が昭和二七年及び二八年に実施した実態調査に基づき算出した最底生活費消費単位による方式(以下労研生活費方式と略称。)を採用している。そして、前審判がその基礎とした、前審判当時の申立人側及び相手方側の右方式による最低生活費、消費単位は、別紙第三表記載のとおりであり、前審判後の現在における申立人側及び相手方側の右方式による最低生活消費単位は別紙第四表記載のとおりであつて、前審判が基礎とした前審判当時のそれとの間に数値上の変化が認められない。

(四)  当裁判所も、婚姻費用分担額決定の方法としては、労研生活費方式により当事者の最低生活費を算出し、これを基礎として、婚姻費用分担額を決定することが相当であると思料するので、先ず、右方式に従い双方の月収(別紙第二表記載)、最低生活費消費単位(別紙第四表)に基づき計算すると、別紙第四表記載のとおり相手方が長女扶美子と共に生活するのに要する最低生活費は月額四万四、六五九円、これから相手方の月収を控除した最低生活費の不足額は二一、二三二円となる。従つて、相手方が申立人から支払を受くべき婚姻費用分担額決定の基礎となるべき相手方の最低生活費の不足額は、今なお前審判で定められた婚姻費用分担額月額二万円を超過しているのであるから、双方の収入及び最低生活費消費単位に基づく右最低生活費不足額の面から見る限り、未だ前審判で定められた婚姻費用分担額減額の理由となる事情の変更は認められない。

(五)  しかしながら、婚姻費用分担額を決定するには、前記最低生活費不足額を基礎としこれに加えて更に双方の家計支出面における事情をも考慮すべきであるから、事情変更による右分担額減額の当否を決定するにも双方の家計支出面における事情の変更をも考慮しなければならない。そこで、この点につき検討する。

先ず相手方の家計支出面においては、一般的な食料品価格の上昇による食費増額の必要性の点を除いては、前審判が基礎とした当時の家計支出に比し、必然的な支出の増減もしくは必要やむを得ないと考えられる著しい支出増加はない。(食費についても、相手方においては、現実の支出額の上で増加を示していない。)

申立人については次の変動が認められる。

(イ) 通勤交通費の増加。申立人は、昭和四二年三月の転勤後、現住居から勤務先への通勤費としてバス運賃月当り約二、五〇〇円を要するようになつたが、勤務先会社から通勤費として国鉄○○○駅○○駅間国鉄通勤定期券料金の半額分を支給されており、その分として昭和四二年七月分の給料には右定期券料金三箇月分の半額二、二八五円が一括支給されているので、結局通勤費の増額分は、月当り、前記の二、五〇〇円から前記補助支給額約七六〇円を差し引いた約一七四〇円となる。

(ロ) 子供の保育園通園費用。昭和四二年四月から申立人の女児明子の保育園通園費用として月当り約三、〇〇〇円の支出が必要となつた。

(ハ) 食費の増加。前審判が基礎とした昭和四一年一月当時月当り約一万五、七〇〇円であつた食費が、昭和四二年九月には二万一、〇〇七円となり、約五、三〇七円の増加を示している。

以上の(イ)は必然的な支出増加であり、(ロ)は、必然的とはいえないが、現在の標準的な育児習慣上已むを得ない支出であり、(ハ)は相手方においては食費の増加を示していないことに徴し、申立人側においても若干の調節の余地はあると思われるけれども食料品価格の状況、その上昇傾向、申立人側の家族数からみて、これ又、おおむね已むを得ない支出増ということができる。

申立人の家計における支出増加中必要已むを得ないと認められるものは、上記三者である。別紙第一表と第二表とを対比すると、申立人の家計支出中支出額の増加しているものとして、以上の外、生命保険料、諸物資立替金の項目があるが、これ等が前記(イ)(ロ)(ハ)の加き必要已むを得ない支出増加に該ると認めるに足る資料はないから、この支出増をもつて、婚姻費用分担金減額の理由となる事情の変更とみることはできない。そして、前記(イ)(ロ)(ハ)の必要已むを得ないと考えられる支出増加の額の合計は約一万〇、〇四七円となる。

次に申立人の家計支出上当然に減少を来している分として次のものが挙げられる。

(い) 住宅費(社宅使用料)の減少。住宅費(社宅使用料)は、前審判当時月額九、〇〇〇円であつたのが、昭和四二年三月の広島転勤以降は三、二〇〇円となり、その差五、八〇〇円が当然減少となつた。

(ろ) 債務返済金の減少。債務返済割払額は前審判当時月額一万五、〇〇〇円であつたのが、昭和四二年九月には月額九、八一一円(勤務先会社宛て分六、八一一円、知人宛分三、〇〇〇円)と減少している。但し、昭和四三年一月以降は知人宛て返済分が五、〇〇〇円になるので、右九月分よりは二、〇〇〇円増加する予定であり、このことを計算に入れても、前審判当時に比し、約三、一八九円の減少となる。

以上(い)(ろ)を合計すると家計費における当然の支出減の合計は八、九八九円となり、(イ)、(ロ)、(ハ)と(い)、(ろ)を通算すると、前審判後の事情として、月額約一、〇五八円の必要已むを得ない支出増を来していることとなる。しかしながら、申立人の月収も、別紙第一表、第二表、第二表の二から明かなとおり、昭和四二年九月現在で、前審判が基礎とした月収額に比し約六、〇九八円の増加を示しているのであるから、右支出増は右月収額の増加により十分まかなわれるものといわなければならず、右支出増の事実をもつて、前審判の定めた月額二万円の婚姻費用分担金の支払を困難ならしめる事情の変更とみることはできない。

(六)  更に、申立人の家計における収入、支出についての前審判後の事情変更の有無、程度の点を離れ、前審判後の申立人の家計につき、月額二万円の婚姻費用分担金を支出することの能否を検討してみても、右支出の継続が申立人主張のようにその家計上不可能で申立人一家の生命を脅かすものであるとは到底認められず、別紙第二表、第二表の二記載の申立人の収入、家計支出等その生活状況に照らし、申立人の家計の調節により、右金額の支出は十分可能であると認められる。

二  以上認定し検討したところを綜合すれば、前審判が申立人より相手方へ給付すべきことを命じた婚姻費用分担額月額二万円については、未だその金額を減額すべき事情の変更はなく、現在なお、申立人において右金額の支払を継続することが可能であり且つ相当であると認められるから、右金額の減額を求める本件申立は失当であり却下さるべきものである。よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高橋正之)

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